3.1 脳・神経科学研究分野の研究体制の現状
 脳・神経科学分野の研究者に対するヒアリング調査において明らかになったNeuroinformatics発展の妨げとなる問題点・課題、及びOECD勧告案から、我が国でNeuroinformaticsを推進するためにクリアしなければならない課題を以下に列挙する。

(1) 教育

(2) 情報交流

(3) 研究体制

(4) 研究成果

(5) データベース

(6) ツール

 これらのヒアリング調査結果を整理すると、我が国の脳・神経科学研究分野の研究体制の現状は、図 1-1のように示される。研究機関、大学、企業において研究者は各自研究を行っており、その成果については関連する学会やジャーナルに発表している。我が国における脳・神経科学研究分野の研究体制には、研究者の評価を特定の分野での論文数やその領域のみの評価で行うといった封建的な縦割り社会構造による弊害により、各研究者が自分の領域をしっかり守り、それ以外にはあまり注意を払っていない。このためNeuroinformaticsが目指す実験系と情報系の学際的な研究を行っている研究者にとって研究結果を発表する場が限られ、実験系、又は情報系いずれかに偏った研究発表となってしまい、双方を融合させて結果を十分に発表できない。さらには、縦割り型の教育しか行わない現状の教育制度のため、実験系、情報系の両方の知識を兼ね備えた研究者を育てることは困難である。
 また、研究機関、大学、企業についてみると、研究成果と費用の問題から横の繋がりが弱い。このため、各機関を越えた研究者間の交流や、実験施設、データ解析施設等の共同利用も少ないのが現状である。

fig:1-1

図 1-1 脳・神経科学研究分野の研究体制の現状

3.2 全体の施策
 3.1で示した我が国における脳・神経科学分野の研究、教育、情報共有、組織体制等における問題点を踏まえ、我が国におけるNeuroinformaticsの発展状況を想定し、その発展状況に応じた施策を提言する。

3.2.1 Neuroinformaticsの発展状況
 我が国におけるNeuroinformaticsは、次のようなフェーズを経て発展すると考えられる。

以下で各フェーズについて説明する。

(1) 第〇フェーズ
 現在の状態である。このフェーズでは、生理学分野と情報学分野の研究者は分れていて、両方の知識をもつ研究者は少ない。また、研究成果の蓄積も研究者個人のレベルに留まっている。

fig:1-2
図 1-2 第〇フェーズ

(2) 第一フェーズ
 第一フェーズは、Neuroinformaticsの立ち上げ期である。この時期でも、生理学と情報学の両方の分野の知識を持つ研究者は少ない。しかし、各分野の研究者同士の交流・共同研究によって、Neuroinformaticsが進展を始める時期である。また、各機関において、研究成果を蓄積・共有し、個人レベルの蓄積から組織的な成果蓄積に移行する。さらに、生理学と情報学の両方の知識を身につけるための教育が始まる時期である。第〇フェーズからこのフェーズへの移行に3〜5年程と考えられる。

fig:1-3
図 1-3 第一フェーズ

(3) 第二フェーズ
 第二フェーズは、Neuroinformaticsが認知された時期である。Neuroinformaticsの研究が軌道に乗り、共同研究が活発化すると同時に、各組織が個々にデータベース化した研究成果を公開していく時期である。
この時期では、各組織が蓄積したデータベースを公開し、それらの活用によって、Neuroinformaticsの進展が加速される。同時に、各組織のデータベースをより有効に利用するための組織間協力が行われる。

fig:1-4
図 1-4 第二フェーズ

(4) 第三フェーズ
 第三フェーズでは、生理学、情報学の両方の知識を持った研究者が十分育ち、Neuroinformaticsが一分野として確立する時期である。この時期では、Neuroinformaticsの成果は、脳・神経系の研究分野に留まらず、医療・工学等を通して、産業や一般社会へ還元される。

fig:1-5
図 1-5 第三フェーズ

1.2.2Neuroinformatics発展の施策
 Neuroinformaticsの本質は、「脳データの電子化・共有化」、「脳機能の数理モデル化」であり、いずれの場面でも生理学(医学、生物学)と情報学(数学、工学、計算機科学)の知識が必要である。従って、Neuroinformaticsの進展には、生理学と情報学の知識を持った研究者と実験と解析の双方を行える施設が必要である。また、脳が非常に複雑であるため、多くの研究者が多面的に研究し、それらの研究成果を共有できることが必要である。しかし、3.1で述べたように現状の研究体制は整っていない。
 Neuroinformaticsを発展させるためには、Neuroinformaticsの発展状況に応じて、全体を見通し、各研究機関の意見を集約・調整したり、国や企業に対し支援を働きかけ、現状の体制を徐々に変革することが必要である。すなわち、我が国の各研究分野のキーマンが参画し、Neuroinformaticsの発展状況に応じたアクションを起こす必要がある。このような組織・人達をここでは、「Neuroinformaticsオーガナイザ」と総称する。Neuroinformaticsオーガナイザは、各フェーズごとに研究体制を変革する働きかけをしなければならない。
 以下に、各フェーズへ移行するために「Neuroinformaticsオーガナイザ」が果たす役割を示す。現在の脳・神経科学研究分野の研究体制については、各研究機関、学会の横の繋がりがなく、実験系、情報系の両方の知識を有する研究者が少ないこと、また、それらの分野を融合させた研究成果発表の場がない、といった問題点がある。そこで、最初は異分野の研究者が参加する共同研究を行うことにより、Neurorinformaticsをスタートさせなければならない。そのためには、各研究機関、学会等に対し、実験系と情報系の研究者が共同研究を行うことを積極的に働きかけることが必要となる。

fig:1-6
図1-6 Neuroinformaticsの発展状況に応じた「Neuroinformaticsオーガナイザ」の役割

(1) 第一フェーズ
 第一フェーズでは、Neuroinformaticsオーガナイザは、各組織でのNeuroinformaticsをプロモートする機能を有する。働きかける対象としては、既存の国立研究所、大学、学会などである。また、国に対しては、Neuroinformatics分野の研究情報基盤整備、共同プロジェクトの推進を要請する。図 1-7に示す組織A,B,Cは、研究機関、学会などである。プロモータがこのような既存組織にNeuroinformaticsの研究グループ、研究会等を立ち上げるといった働きかけを行い、各組織にNeuroinformaticsを受け入れる下地を作らせる。また、OECD勧告案で述べられているように、Neuroinformaticsでは国際協力が不可欠である。このため、海外の研究機関との研究協力窓口としての機能を設置する。

fig:1-7
図 1-7 オーガナイザのプロモータとしての役割

このフェーズにおける、オーガナイザの施策、及び各機関が行う施策について以下に示す。

(a) オーガナイザの施策
Neuroinformatics分野の人材育成・教育の推進
 オーガナイザは、各研究機関、大学、学会に対しては研究グループ、研究会等を立ち上げるといった働きかけを行う。また、国に対してNeuroinformaticsに取り組むきっかけを与える共同プロジェクトを立ち上げるよう要請する。

研究者間の連携
 国が科学研究費補助金の特別推進研究、及び重点領域研究等のようなプロジェクトを立ち上げる。このプロジェクトに各研究機関が参加することでNeuroinformaticsを理解するとともに必要な環境を整えられるようにする。

Neuroinformatics研究機関の整備
Neuroinformatics機関の新設
 Neuroinformatics学会(仮称)を設置することで、これに関連した分野の研究者が情報交換できる場を提供するとともに、成果発表の場を提供する。

研究情報基盤整備
Neuroinformatics研究ネットワークシステム構築
 分散して存在するNeuroinformatics資源の統合化に向けて、どのような資源がどこに存在するかを調査する。これに基づいて、各組織でのNeuroinformatcis資源の蓄積や整備を働きかける。

研究資材の共有化
 研究基盤整備の一環として、データ、ツール、モデル等の資源の他、実験動物に関する情報も重要である。ノックアウトマウスやトランスジェニックマウス等の遺伝子操作動物の研究開発、及び脊椎動物・無脊椎動物の新しいモデル系・転換系の研究開発といった研究資材としての実験動物の開発・飼育・供給は重要であり、それらの情報を共有化するための基礎調査を行う。

ソフト面からの教育支援
 教育を支援するためにマルチメディアを用いたNeuroinformatics教育ツールの開発を行うよう各研究機関に働きかけ、国に対してその支援を働きかける。

制度面からの研究支援
 Neuroinformaticsは学際的研究領域であるため、様々な研究支援体制の確立が重要である。

オーガナイザ組織つくり
 国際協力のためのNeuroinformatics事務局を設置する。但し、この時期ではNeuroinformaticsオーガナイザは確立した組織にはなっていないと考えられる。従って、実体としては、Neuroinformaticsに積極的な研究機関がその役割を担う。

(b) 各研究機関の施策
Neuroinformatics分野の人材育成・教育の推進
 我が国における脳・神経科学分野の研究は、専門分野別に個々に行われており、横の連携が極めて少ない閉鎖的なものとなっている。Neuroinformaticsでは、専門分野にとらわれない幅広い創意ある研究が不可欠である。また、優れた資質・能力を持つ研究者の確保と独創性のある若手研究者の養成が重要である。

研究者間の連携・教育
 研究者は研究課題に応じて専門分野の枠を越えた共同研究(研究者レベルで、研究機関内外を問わずに行う)に取り組んでいかなければならない。また、国内外の優れた研究者を迎え入れることは、Neuroinformaticsの発展のために研究者に対して多大の刺激を与える。
 さらに、Neuroinformaticsを目指す研究者については、専門分野を越えて新しい専門知識、技術を習得する場を提供する。特に若手研究者には、自立して先駆的、独創的な研究を行える場を提供する。また、Neuroinformaticsに関する国際的なシンポジウムやワークショップを開催し、研究者が参加することにより海外の研究動向に接する機会を与える。

学生へのNeuroinformatics教育
 研究動向に即応したトレーニングコースや、公開プログラムを集中的、計画的に行う。また、大学においては研究専攻はもとより他の学部との連携・協力を進める必要がある。

宣伝・広報活動
 宣伝・広報活動
 Neuroinformaticsの研究成果を学術雑誌、シンポジウム、一般向け解説書に発表したり、Webを通して公開することは、研究活動の一環として、また、他の研究者の評価を受ける機会として重要である。また、このような広報活動とともに一般向けにセミナーを開催することによりNeuroinformaticsを社会に還元し、広く一般の理解を得るものである。

Neuroinformatics研究機関の整備
既存機関の整備
 Neuroinformaticsには、実験系と情報系研究が同時に行える環境が必要である。そのため、各研究機関は不足する設備・環境を強化する必要がある。

研究情報基盤整備
 Neuroinformaticsを推進するために電子的な実験データ、及び研究支援ツール、モデルといった研究成果、及び研究情報の蓄積・共有化を目的とし、研究情報基盤の整備を行う必要がある。

データの整備・蓄積・公開
 実験により創出された電子的な実験データを整備・蓄積・公開するために、各研究者の保有データ等に関する基礎調査を実施し、データベース構築を行う。データベース構築にあたっては、検索に時間がかかるといったことを回避するような、ユーザの立場に立った構築・検索技術を導入しなければならない。例えば、ユーザのデータ検索・利用を容易にする技術の開発、データの関連性を考えた自動データ加工技術、プログラム、データ管理システム、及びデータそのものを統一的に扱うオブジェクト指向技術の開発を含めて考える必要がある。

研究支援ツール、モデルの蓄積・公開
 様々なNeuroinformatics支援ツールやモデルなど蓄積・公開するために、各研究者が保有するツール、モデル等に関する基礎調査を実施し、データベース化(リンク情報も含む)を図る。既存の資源収集の他、Neuroinformaticsツールの開発も行う。

研究関連情報の提供
 研究基盤整備の一環として、データ、ツール、モデル等の資源の他、論文、研究者等の情報も重要である。論文については、Webによる利用を目指すために電子化を図る、新規論文タイトルを各研究者に配信するなどのサービスを提供する必要がある。各研究機関は、研究者情報として研究者リストを作成し公開するなど、共同研究を行う上で重要な情報源を提供する。その他、研究関連情報(データ、ツール、モデルも含む)に関するメーリングリストやFAQを運用する。

制度面からの研究支援
 Neuroinformaticsは学際的研究領域であるため、様々な研究支援体制の確立が重要である。このような新しい広範囲な研究を推進するためには、人材の養成・確保は重要である。

オーガナイザ組織つくり
 オーガナイザへの人員を派遣し、率先してNeuroinfromatics発展に関与する。これによってNeuroinformaticsを推進する研究者・研究機関の間での情報交換が進展できる。

研究ポストづくり
 Neuroinformaticsの発展には、様々な専門分野の優れた若手研究者のさらなる参加が不可欠である。現在の若手研究者を支援する制度は十分とは言えないため、優秀な学生が企業に就職しているのが現状である。よって、様々な分野の若手研究者がNeuroinformatics分野での研究を行えるように、研究者のポストを確保する施策を行う。

この時の各機関の関係は次のようになる。

fig:1-8

図 1-8 第一フェーズでのNeuroinformaticsの研究体制

 Neuroinformaticsオーガナイザは、このフェーズでは、今後の進展の方向性を決める重要な役割があるため、各研究分野のキーマンが参加しなければならない。このような組織の立ち上げについては、

が考えられる。

 トップダウンからの組織化については、"学術会議"レベルの組織として位置付けるもので、OECD勧告を受けて設置されると考えられる。
一方、ボトムアップからの組織化については、Neuroinformaticsに関連する既存研究機関、既存学会等の代表者らが本組織を作り上げていき、国や他の研究機関、学会等に協力を求めていくものである。参加機関としては、研究機関であれば、理化学研究所、電子技術総合研究所等の国立研究所であり、学会については、情報科学、神経科学の両方を視野に入れて活動している学会として、神経回路網学会等が挙げられる。しかしながら、各機関へ働きかけるといったことから中立的な立場でなければならない。
 本調査の段階では、OECD勧告まで採用されていない。しかし、Neuroinformaticsの重要性から、これら施策の実施は早いほど望ましい。従って、本調査では、ボトムアップからの組織化を進めるべきであると考える。そして、組織化されたオーガナイザは、Neuroinformatics推進のため積極的に国に対して働きかけなければならない。

fig:1-9
図 1-9 ボトムアップからの組織化

(2) 第二フェーズ
 第二フェーズでは、Neuroinformaticsオーガナイザは、Neuroinformaticsの研究が軌道に乗り各組織が研究活動を進めていく中で、各組織から出た意見を調整する役割を持つ。すなわち、コーディネータとしての役割を果たす。例えば、合同研究会を開催したい等の意見が出れば、他の組織と調整し実現する。また、各研究機関が保有しているデータのデータベース化協力要請、各機関の研究インフラ(データベース、ツール等)の統合化に向けた調整(データベース管理者、構築者の意見交換を行う場を用意する)、Neuroinformaticsツールの流通の支援なども活動対象となる。

fig:1-10
図1-10 オーガナイザの第二フェーズの役割

このフェーズにおける、オーガナイザ、及び各機関が行う新たな施策について以下に示す。

(a) オーガナイザの施策
 研究情報基盤整備
 Neuroinformatics研究ネットワークシステム構築
 分散して存在するNeuroinformatics資源を研究者が容易に利用できるように分散データベースの統合化を図る。

制度面からの研究支援
 Neuroinformaticsは学際的研究領域であるため、様々な研究支援体制の確立が重要である。このような新しい広範囲な研究を推進するためには、研究経費、人材の養成・確保は重要である。

財源確保
 先端的な研究を行うとともに、研究情報基盤を整備するための財源を確保するため、新規にファンドを設立する。

研究インセンティブつくり
 分散して存在するデータベースの質の維持、向上のためにデータ評価委員会を設置する。第一フェーズでは、各研究機関内のデータがデータベース化の対象であるが、第二フェーズでは、他の研究者のデータも対象とする。データベースによって、データの質が異なるため、客観的な評価を下す組織が必要となる。この組織による評価により他の研究者のデータを取り込む場合はもちろんのこと、自研究機関から創出されるデータを登録する場合にも評価を受けるため、データの質を維持することができる。このような客観的な評価を受け、データの質を維持することにより、データベースのインセンティブも向上すると考えられる。

(b) 各研究機関が行う施策
 Neuroinformatics教育の推進・人材育成
 Neuroinformatics教育
  Neuroinformatics教育を企業に属する研究者に対して行う。

研究情報基盤整備
研究資材の共有化
 第一フェーズの調査を踏まえ、これらの情報を共有化し、資材の流通の促進を図る。また、fMRIやPET等の研究設備に関しては、大型化・高度化が著しく、高価であるためすべての研究機関に設置することは難しい。そのため、このような大型設備が整備されている研究機関を研究拠点とし、これらの大型設備を共同利用できるような枠組みをつくる。

この時の各機関の関係は次のようになる。

fig:1-11
図 1-11 第二フェーズでのNeuroinformaticsの研究体制

(3) 第三フェーズ
 第三フェーズでは、育った研究者の活動の場をどのように提供するか、Neuroinformaticsの成果をどのように社会や産業に還元するか、といった問題がオーガナイザの対処するものになる。

fig:1-12
図1-12 オーガナイザの第三フェーズの役割

このフェーズにおける、オーガナイザが行う新たな施策について以下に示す。

(a) オーガナイザの施策
 Neuroinformatics研究機関の整備
 研究機関の新設
  国に対して研究機関・大学施設の拡充について、新規研究室、新規学部、学科の設置を働きかける。

 制度面からの研究支援
 研究インセンティブつくり
  研究インフラ整備完了後、運用体制を企業に展開するために、技術の公開・移転を行う。

このときの各機関の関係は次のようになる。

fig:1-13
図1-13 第三フェーズのNeuroinformaticsの研究体制

施策のまとめ

Neuroinformatics施策一覧
Neuroinformatics推進に係わる施策を、フェーズごとの一覧表にしてまとめた。
plan

3.3 理化学研究所脳科学総合研究センターの施策

3.3.1 理化学研究所脳科学総合研究センターの位置付け
 理化学研究所脳科学総合研究センター(以下、理研BSI)は脳・神経科学分野の研究を行う上で研究者、研究設備など最先端の人的、物的資源を有し、多角的なアプローチができる環境を持っている。脳を知る・脳を守る・脳を創る領域の研究グループ、及び先端技術開発センターといった様々な実験系、情報系の研究室を有し、日本でのNeuroinformaticsをリードしていく機関としてふさわしい資質を持っている機関のひとつである。
 理研BSIが我が国におけるNeuroinformatics分野のイニシアティブをとっていくためには、理研BSIからNeuroinformaticsオーガナイザに代表者を出し、積極的にNeuroinformaticsの発展に関与する必要がある。また、理研BSI内でNeuroinformaticsを推進するために必要な研究体制、すなわち、外部の研究者に対し門戸を開き積極的に共同研究・教育を推進し、理研内で出された研究成果については、積極的に電子データとして蓄積・共有化を図れる体制を構築するなど、率先して取り組まなければならない。先端技術開発センターにおいては、"Neuroinformaticsチーム"を設置することを計画しており、このチームが中心となり、Neuroinformaticsを理研BSIで推進していくことになる。

3.3.2 理化学研究所脳科学総合研究センターの施策
 理研BSIは、前節で述べたように、Neuroinformaticsを推進する中心となる研究機関といえる。以下に、第一フェーズにおいて、理研BSI内でNeuroinformaticsの推進する施策、及びNeuroinformaticsオーガナイザとなって理研BSIがイニシアティブをとっていくための施策を挙げる。
第二フェーズ以降、我が国のNeuroinformatics発展状況に応じて"Neuroinformaticsチーム"において理研BSIとしての方向性を再度検討する必要がある。

(1) 理研BSI内でのNeuroinformaticsの推進
  理研BSIは、理研BSI内でNeuroinformaticsを推進するために、次のような施策を行うべきである。

(a) 学生・若手研究者へのNeuroinformatics教育
 教育として大学院生、ポスドク等の若手研究者を対象としたNeuroinformatics教育を継続的なサマーコース等によって行う。さらに、より横断的な教育として、サマーコースにおいて参加者がひとつの研究室にとどまることなく、複数の研究室で連携して研究が行えるような状況を提供することが考えられる。

(b) 研究者間の連携・教育
 理研BSIグループディレクタ、チームリーダに対するヒアリング調査でも明らかになったように、理研BSIの研究者についてもNeuroinformaticsのコンセプトは浸透していない。そのため、RETREAT開催時にNeuroinformaticsのコンセプトを浸透させるため、海外のNeuroinformatics研究者を呼び講演してもらうといった施策が考えられる。さらに、理研BSIの研究グループの理論系研究者と実験系研究者の共同研究を促進するなど、Neuroinformaticsの研究体制を整える。また、フェローシップ制の導入により研究者が自由に研究課題、研究指導者を選択できるような場を提供することが重要である。

(c) データベース構築
 理研BSI内での電子化された研究成果をBSI情報センターにて蓄積、維持、公開運用(データベース化)を行う。そのために、理研BSI情報センター内でデータベース構築部門を設置する。この部門には、脳神経科学分野におけるデータが多様・複雑であることから、データベースを構築するための専門家が必要であり、また、データの登録・維持する為にデータの意味などを判断するために神経科学研究者レベルの知識を有する人材が必要である。さらに、データを提供してもらうためには、各研究者の協力が必要となる。
 理研BSIのグループディレクタ、チームリーダに対するヒアリング結果から、理研BSI内では、以下に示すようなシーズ(2.2.3、理研のシーズ一覧参照)がある。前節で述べたデータベースの開発に利用可能な理研BSI内で創出されているデータには以下のようなものが具体的に挙げられる。

fig:1-14
図1-14 理研BSIで構築するデータベースの対象データ

 理研BSI情報センターが理研BSIで創出された実験データをデータベース化するためには、まず最初に、実験条件等が記載されている研究ノート(非電子化情報)の電子化を行う必要がある(実験に関する情報は、研究ノートとして電子化されていないケースが多い)。なお、遺伝子のシーケンスデータについては、DDBJ等すでに運用(登録が義務化)しており、これらのデータベースを改めて構築する必要はない。
 また、理研BSIは、Neuroinformaticsの国内での発展のためのに、すでに構築された(構築しつつある)データベースに積極的に協力することも考えられる。例えば、通信・放送機構 青葉脳画像リサーチセンター(Telecommunications Advancement organization of Japan(TAO) Aoba Brain Imaging Research Center)において、総合的先端脳画像情報通信ネットワーク研究開発プロジェクトの下、健常者の脳形態・機能画像データベースの構築が行われている。このようなプロジェクトに対し、データの提供やシステム整備の支援(ハードウェア環境の提供、情報系技術者の提供など)等により協力を行っていくことも考えられる。
 なお、データベースに登録する際のデータの質を維持するため、基本的に論文に掲載されたものについて登録する等、Neuroinformaticsチームで検討する必要がある。

(d) 研究支援ツール、モデルの収集、及び開発・メンテナンス
 現在、理研BSIには、Neuroinformatics資源としてすぐに利用できるツールやモデルは少ない。このため、理研BSI内のシーズのみでこの分野の構築を行うことは難しい。しかし、理研BSI内にデータベース構築部門を設置するにあたり、こうした情報科学に詳しい人材がそろえられる。こうした人材を利用して、他のNeuroinformatics研究者が開発したツールの維持、メンテナンス、改良といった活動が可能である。
ツール・モデルについては、どこにどのようなツール・モデルがあるかを広く調査し、これらのリンク集を作成・公開する。また、メンテナンス技術のない研究者からツールを提供してもらい、ツールの維持・メンテナンスを行う。
ツールについては、ヒアリングでも明らかになったように、研究者によって研究成果の整理方法が異なる。研究成果の整理方法を一本化するのが望ましいが実際には無理であると思われる。そのため、Neuroinformaticsの研究ツールとして、実験等の結果を整理するような支援システム(実験条件、結果を実験メモ代わりに入力するシステム)を開発、提供することによりデータベース構築がスムーズに行えることが期待される。

(e) 研究成果の宣伝・広報活動
 理研BSIで出された研究成果や、Neuroinformatics推進のために理研BSIが実施した施策とその成果等を随時Web等で広報する。さらに、一般向けNeruroinformaticsセミナーを開催し、研究者のみならず社会的にNeuroinformaticsの重要性を広報する。

(2) Neuroinformaticsオーガナイザへの関与
 理研BSIがNeuroinformatics分野のイニシアティブをとっていくためには、以下の施策を行うべきである。

(a) 共同プロジェクトの推進
 共同プロジェクトを立ち上げるための提案を国に対して行う。

(b) オーガナイザ組織への人員派遣
 オーガナイザ設立の呼びかけを行い、理研BSIからNeuroinformaticsオーガナイザに代表者を出し、積極的にNeuroinformaticsの発展に関与するとともに、理研BSIに連絡事務局を設置し、Neuroinformaticsを進める研究機関と協調する必要がある。

(c) ソフト面からの教育支援
 広くNeuroinformaticsを理解してもらうため、マルチメディアを利用したNeuroinformatics教育ツールの開発を行う。こうして作成した教育ツールを講習会等で活用するとともに、Neuroinformaticsを推進しようとする組織に積極的に提供する。また、理研BSIの研究成果についてWeb上で公開した際、その成果についてWeb上で討論できるような仕組みを作り、広く評価を受けるようにする。

(d) データベース統合化の調査
 脳・神経科学研究に必要なデータベースは、多種多様であり、一研究機関ですべてを実現することはできない。そこで、国内に散在するシーズを持つ研究機関を見い出し、積極的に相互協力することで、データベースの実現を図る必要がある。このために、データベースのシーズ調査を行うとともに、将来の統合化を見据えた議論の場を提供する。

(e) Neuroinformatics事務局の設置
 Neuroinformaticsには、国際協力が不可欠であり、OECD勧告案では、INC(International Neuroinformatics Committee)を置き、協力する各国にその事務局を置くように唱っている。そこで、理研BSIが率先してNeuroinformatics事務局を設置する。具体的な作業としては、INCとの連絡、折衝など、Neuroinformaticsの国際協力の窓口、及び海外研究者の受け入れ窓口、日本の研究者の留学窓口である。その他、国内外のNeuroinformatics研究者を招いて講演など、我が国においてNeuroinformaticsを広めるための企画を行う。
 これにより、海外の情報がいち早く理研BSIにも伝えられるため、研究所内の研究活動を活性化する効果もある。

以下に理研が担うべき役割を示す。

fig:1-15
図 1-15 理研が担うべき役割